
2025年4月、GoogleはAIエージェント同士の連携を可能にする新たなオープンプロトコル「Agent2Agent(A2A)」を発表しました。このプロトコルは、異なるベンダーやプラットフォームで構築されたAIエージェントがシームレスに協力し、複雑なタスクを効率的に処理できる未来を目指しています。
目次
A2Aプロトコルとは?
A2Aは、異なるAIエージェント同士が共通のルールで通信し、連携するためのオープンな標準規格です。これにより、企業や研究機関が独自に開発したエージェントが、ベンダーやプラットフォームの違いを超えて協力し合うことが可能になります。
A2Aの設計原則
A2Aプロトコルは、以下の5つの主要原則に基づいて設計されています:
エージェントの能力を活用:エージェントが記憶やツール、コンテキストを共有していない場合でも、自然に協力できるように設計されています。
既存標準を基盤に構築:HTTP、SSE、JSON-RPCなどの広く利用されている標準を基盤としており、企業が日常的に使用しているITスタックとの統合が容易です。
デフォルトでセキュリティを確保:エンタープライズグレードの認証と認可をサポートし、OpenAPIの認証スキームと同等のセキュリティ機能を提供します。
長時間タスクへの対応:短時間で完了するタスクから、人間が介在する数時間から数日かかる詳細調査まで、幅広いシナリオに対応できます。
モダリティに依存しない設計:テキストだけでなく、音声や動画ストリーミングなど、多様な形式をサポートするよう設計されています。
A2Aの仕組み
A2Aプロトコルは、「クライアントエージェント」と「リモートエージェント」という2つの役割を想定しています。クライアントエージェントはタスクの作成と伝達を担当し、リモートエージェントはそのタスクを実行して正確な情報を提供したり、適切な行動を取ります。
エージェントカード(Agent Card)
各エージェントは、自身の機能や特徴を「エージェントカード」として公開します。これにより、クライアントエージェントは最適なリモートエージェントを特定し、タスクを依頼することができます。
タスク管理とアーティファクト
タスクは、クライアントエージェントからリモートエージェントへの処理依頼として定義されます。タスクの進捗や結果は「アーティファクト」として管理され、エージェント間で共有されます。
コラボレーションとユーザー体験の調整
エージェント同士はメッセージを送信し合い、コンテキスト、返信、アーティファクト、またはユーザー指示を伝えることができます。各メッセージには「パーツ」と呼ばれる要素が含まれており、生成された画像などの完成したコンテンツの一部です。これにより、ユーザー体験の調整が可能になります。
A2Aの活用事例
人材採用
A2Aを活用することで、ソフトウェアエンジニアの採用プロセスを大幅に効率化できます。例えば、採用マネージャーが統合インターフェース内でエージェントに対し、勤務地やスキルなどが求人条件に合う候補者を探すよう指示すると、エージェントが他の専門エージェントと連携し、候補者を見つけます。その後、面接日程の調整やバックグラウンドチェックなどもエージェントが連携して行うことが可能です。
ビジネスプロセスの自動化
営業支援エージェントが顧客情報を取得し、在庫管理エージェントが在庫を確認、提案書作成エージェントがそれらをまとめて見積書を自動生成するなど、部門横断的な業務プロセスをシームレスに自動化できます。
マルチモーダルな対話サービス
音声で「部屋のレイアウト案を作って」と依頼すると、音声認識エージェント、インテリア設計エージェント、画像生成エージェント、音声合成エージェントが連携し、レイアウト案の3D画像と音声説明を生成するなど、リッチなユーザー体験を提供できます。
A2Aの未来と可能性
異なるエージェントの相互運用性
A2Aプロトコルが普及することで、異なるベンダーが開発したAIエージェント同士の「相互運用性」が飛躍的に向上します。現在、多くのエージェントはクローズドな環境で動作し、他のAIと自然に連携するのは難しい状況です。しかし、A2Aによって、自然言語を介したやりとりを超えた、構造化された情報のやり取りが可能になります。たとえば、Slack上のAIエージェントがGoogle Cloudのドキュメントを検索し、Notionの情報を統合するなど、ツールの垣根を越えた協業が可能になります。
新たなエージェントエコシステムの誕生
A2Aは、単にエージェント同士を連携させるだけでなく、新しい種類のビジネスやサービスモデルを生み出す基盤となります。たとえば、特定業務に特化した「専門エージェント」がマーケットプレイスに登場し、他のエージェントから委託されたタスクを専門的に処理するような形です。
このようなエージェント経済(Agent Economy)の時代には、人間が「どのエージェントと協働するか」「どのエージェントを構成要素に含めるか」を選択できるようになり、あたかも人材を選んでチームを組むような感覚でAIを活用できる未来が想定されます。
AI倫理とガバナンスへの配慮
A2Aがより広範に使われるようになるにつれて、AI同士のやりとりに対する倫理的・法的な議論も重要になります。エージェント間で個人情報を取り扱う場合、どのようにプライバシーを確保するか、エージェントの判断に対する責任の所在はどこか、といった課題が浮上します。
Googleはこの点にも配慮し、A2Aプロトコルの中に認証・認可のメカニズムを組み込んでおり、開発者や組織がガバナンスを保った形でエージェント連携を実現できるよう設計されています。
技術的な詳細と導入のポイント
技術スタック
A2Aは、以下のような一般的な技術に基づいて構築されています:
HTTP & SSE:リアルタイム通信に対応
JSON-RPC:軽量な通信プロトコル
OpenAPI準拠の認証方式:OAuth2などに対応可能
これらは既に多くの開発者が使い慣れている技術であり、導入障壁が低いのが特徴です。
実装ステップの概要
エージェントカードの作成:エージェントが提供する機能、認証方式、連携可能なモダリティを記述
クライアントエージェントからのタスク発行:JSON-RPCベースでリモートエージェントに依頼
アーティファクトでの結果取得:レスポンスに含まれる生成物や分析結果を受け取る
フィードバックや再依頼:双方向でのやりとりにより、必要な微調整が可能
A2Aの今後の展開
コミュニティ主導の拡張
A2AはGoogleが提唱したプロトコルですが、その実装はオープンソースで公開されており、GitHub上で世界中の開発者による改善が進められています。Google Cloud自身も、標準化団体との連携を進めており、今後W3CやISOなどの標準化プロセスへの統合が期待されます。
他企業の動き
Microsoft、Anthropic、OpenAIなど他の主要AI企業も、エージェント連携の可能性に注目しており、今後A2A互換のプロトコルやブリッジ機構が登場することも予想されます。A2Aは、こうした企業間連携の「共通語」になる可能性を秘めています。
まとめ
Agent2Agent(A2A)プロトコルは、AIエージェント同士が対話的かつ協調的にタスクを遂行できる未来への扉を開きます。人間が複数のAIと協働し、タスクを任せ、調整する時代に向けて、A2Aはまさに不可欠なインフラとなるでしょう。
企業にとっては、業務自動化や顧客対応の高度化だけでなく、新たなサービス提供の可能性を広げる鍵となります。開発者にとっては、オープンかつ拡張可能なフレームワークの中で自由に創造力を発揮できる環境が提供されます。
今後、A2Aを中心としたAIエージェントエコシステムの進化から、目が離せません。