スクラム開発は、少人数のチームが協力し合いながら、迅速かつ柔軟にソフトウェア開発を進める手法です。これは、アジャイル開発の具体的な方法の一つとして、短期間で成果を上げやすく、環境や要件の変化に柔軟に対応できる点が高く評価されています。
本記事では、スクラム開発の概要、特徴、開発の流れ、そしてそのメリットについて詳しく解説します。
目次
スクラム開発とは?
スクラム開発は、1990年代にアメリカのケン・シュエイバー氏とジェフ・サザーランド氏によって提唱されたソフトウェア開発手法の一つで、その名称はラグビーのセットプレーである「スクラム」に由来しています。
この手法では、通常5~10名程度の少人数チームが編成され、各メンバーが明確な役割を担いながら協力して開発を進めます。スクラム開発では、最大でも1ヶ月の期間を「スプリント」として固定し、その期間内に要件定義、設計、開発、実装、テスト、運用といった一連の工程を実施します。スプリントを複数回繰り返すことで、段階的に機能を追加していくことが可能となり、優先順位の高い重要な機能から順次開発を進めることができます.
スクラム開発とアジャイル開発の違い
アプリやソフトウェア開発において重要な概念のひとつが「アジャイル」です。アジャイルは「迅速」や「機敏」といった意味を持ち、その名の通り、要件定義、設計、開発、実装、テスト、運用といった各プロセスを短期間で回すことにより、柔軟かつ迅速な開発を実現します。これらの工程を小さなサイクルで何度も繰り返すことで、必要な機能を優先的に、スピード感をもって提供できるのが特徴です。
一方、スクラム開発はアジャイル開発の具体的な手法のひとつです。スクラム開発では、通常5〜10名程度の少人数のチームが各自の役割を分担し、緊密なコミュニケーションを取りながら協力して開発を進めます。こうした体制により、短期間での成果創出と、変化に対応する柔軟性が高められるのです。
スクラム開発とウォーターフォール型開発の違い
アプリケーションやソフトウェア開発において、かつては「ウォーターフォール型開発」が代表的な手法として広く採用されていました。ウォーターフォールという名称は、日本語で「滝」を意味し、まるで滝が上流から下流へと一方向に流れるように、各開発工程を順次完了させていく点に由来します。すなわち、ある工程が完全に終了して初めて次の工程に進むため、前の工程に戻ることは基本的にありません。このため、仕様変更を前提としていないプロダクトの開発に適している一方で、仕様変更が頻繁に発生するプロダクトには不向きな手法と言えます。
これに対し、スクラム開発はアジャイル開発の具体的な手法のひとつであり、短期間のサイクル(スプリント)を繰り返すことで、変化に柔軟に対応しながら開発を進めることが可能です。ウォーターフォール型開発は、アジャイル開発が提唱される以前は主流でしたが、近年ではその柔軟性と迅速な対応力から、スクラム開発が主流となっています。
スクラム開発の特徴
スクラム開発には、以下の2つの主要な特徴があります。
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2種類のバックログの運用
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チーム主体の役割分担とコミュニケーション重視
以上のような特徴により、スクラム開発は効率的かつ柔軟なアジャイル開発手法として高い評価を受けています。ここでは、スクラム開発の各特徴について詳しく解説します。
2種類のバックログの運用
バックログとは、開発中のプロダクトに実装すべき機能、解決すべき課題、またはチームや各メンバーが取り組むべき業務など、プロジェクト全体で実施すべきタスクの一覧を指します。これらのバックログを基に、具体的な作業計画が立てられます。なお、スクラム開発の特徴として、バックログがプロダクトバックログとスプリントバックログの2種類に分かれている点が挙げられます。
①種類1.プロダクトバックログ
プロダクトバックログとは、プロダクトに実装すべき機能、改善すべき点、解決すべき課題、そしてチームや各メンバーが取り組む業務など、プロジェクト全体で実施するタスクを一覧化したものです。一般的には、各プロダクトごとに1つのプロダクトバックログが作成され、それに1つのチームが割り当てられて作業計画が立てられます。バックログは優先順位順に整理されるため、関係者全員が何をすべきかを把握しやすく、効率的に開発を進めることが可能です。
プロダクトバックログを構成する主要な要素は以下の4点です。
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フィーチャー
- ユーザーが価値を感じるプロダクト機能を指します。
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バグ修正
- プロダクトに存在する不具合の修正作業です。重要度の高いバグは上位に配置され、優先順位が低いものは下位または次のスプリントへ回されます。
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技術的負債
- 開発のスピードを優先した結果、簡易なソリューションを採用したことで発生する、後に追加の作業が必要となるコストを意味します。意図せず発生する場合もあれば、迅速な納品を目的として意図的に生じさせる場合もあります。
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知識獲得
- タスクを達成するために必要な情報を集める活動です。知識不足が原因でタスクが進まなくなることを防ぐために行われます。
なお、プロダクトバックログの作成手法については後述します。このプロダクトバックログを、各スプリントで細分化したものがスプリントバックログとなります。プロダクトバックログは定期的に全関係者に共有され、プロジェクト全体の進捗状況や今後取り組むべきタスクの把握に役立ちます。
②種類2.スプリントバックログ
スプリントバックログとは、各スプリント期間中に実施すべきタスクを一覧化したものです。
一方で、プロダクトバックログは、プロダクト全体においてチームが取り組むべき課題や業務を網羅したリストとなります。つまり、スプリントバックログはプロダクトバックログの一部であり、スプリント期間内に実施するタスクに絞り込む役割を担います。
このスプリントバックログを活用することで、各スプリント内でチームが何に注力すべきか、また何を後回しにしてもよいかが明確になり、結果としてプロジェクトのスコープクリープ(要件の途中変更や追加、当初のスコープを超えた成果物の発生)を防止する効果が期待されます。
スコープクリープの原因のひとつとしては、社内コミュニケーションの不足が挙げられますが、スプリントバックログを通じてタスクを明確にし、チーム内で共有することでこの問題を軽減できます。
また、タスクが具体的に整理されるため、チームの生産性も向上します。
チーム主体のロールでコミュニケーションを重要視
スクラム開発では、全体を統括するプロダクトマネージャーは存在せず、各チームが自律的にマネジメントを行うことが特徴です。通常、チームは5〜10名程度の少人数で構成され、メンバーは固定されます。そして、各メンバーにはプロダクトオーナー、開発者、スクラムマスターという役割が割り当てられ、まるでラグビーのスクラムで選手たちが肩を組んでボールを前に進めるかのように、チームワークが極めて重要になります。
プロダクトオーナーは、プロダクトの方向性を決定し、各スプリントごとにその成果を評価する役割を担います。彼らの意思決定に基づき、開発者が具体的な開発業務を進めます。一方、スクラムマスターは、開発プロセスが円滑に進行するよう、プロダクトオーナーや開発者が抱える課題の解決をサポートし、全体の調整役を果たします。
このように、スクラム開発では、各ロールが互いに連携しながら密なコミュニケーションを取りつつ、効率的に開発を推進していく点が大きな特徴です。
スクラム開発の流れ
スクラム開発は、一般的に以下の流れで行われます。
・プロダクトバックログの作成
・スプリントプランニングミーティングの実施
・デイリースクラムの実施
・スプリントレビューの実施
・スプリントレトロスペクティブの実施
スプリントプランニングミーティング以降は、各スプリントごとに実施されるため、スクラム開発では、これらの流れを繰り返して開発を進めていくのです。
ここでは、スクラム開発の一連の流れを詳しく解説します。
1.プロダクトバックログの作成
まず、プロダクトの目標を明確に定め、その目標を実現するために必要な機能や修正項目などを洗い出し、プロダクトバックログを作成します。プロダクトの将来像やチームの長期的なビジョンに基づいて目標を設定することで、目標が曖昧な状態で開発を進めることによる混乱や不整合を防ぎ、すべての関係者が何をすべきかを理解できる環境を整えます。
次に、プロダクトバックログの管理方法を検討します。管理ツールを活用したデジタル管理や、付箋・カードなどを用いたアナログ管理など、プロジェクトの状況やチームの特性に応じた適切な方法を選択してください。
目標と管理手法が決定したら、目標達成に必要な要素やタスクを一覧化し、整理します。その後、各タスクに優先順位を付け、重要なものから順に実施する目的、KGIやKPI、仕様や画面のイメージ、想定されるリスクなど、各要素の詳細を明確に定義します。プロダクトバックログを一目見ただけで、誰もが次に何をすべきか理解できる状態にすることが極めて重要です。
2.スプリントプランニングミーティングの実施
プロダクトバックログが整ったら、それをさらに細分化して、スプリントレベルに落とし込むためのスプリントバックログを作成します。そのために、まずスプリントプランニングミーティング(スプリント計画会議)を実施します。
この会議では、プロダクトバックログを基に、今回のスプリントで実装するタスク、仕様の詳細、担当者などを決定します。そして、スプリントバックログとして整理され、今回のスプリントで実施しない項目は次回以降に回されます。
3.デイリースクラムの実施
デイリースクラムとは、スプリント期間中に毎日一定の時間に行われる短時間のミーティングです。このミーティングでは、チームメンバー各自がスプリントバックログに基づき、進捗状況、直面している課題、今後の対応策などを報告し、共有します。
通常、デイリースクラムは15~30分程度で実施され、スクラムマスターが各メンバーに対して質問を投げかけ、回答を確認する形式で進められます。また、必要に応じてミーティング中にスプリントバックログの更新を行うこともあります。
さらに、デイリースクラムで共有された情報はプロダクトオーナーにも伝えられ、スクラム開発においてコミュニケーションの円滑化と迅速な問題解決を促進する、非常に重要な役割を担っています。
4.スプリントレビューの実施
スプリントレビューとは、各スプリントの最終日にプロダクトオーナーが成果物を確認するミーティングのことです。レビューでは、デモンストレーションを通じてスプリントバックログに記載された要求がしっかりと満たされているか、また問題がないかをチェックします。
さらに、スプリントレビューは、スプリントバックログの要求が十分に達成されるまで、スプリントとレビューのサイクルを繰り返す点が特徴です。開発チームのみならず、顧客や営業担当者など関係者が参加することで、あらゆる視点から成果物の品質を検証することが可能となります。
レビューの結果、問題がなければリリースへ進みますが、もし問題が見つかればリリースは延期され、再度スプリントとレビューが実施される流れになります。
5.スプリントレトロスペクティブの実施
スプリントレトロスペクティブとは、各スプリントの最終日に行われる振り返りミーティングのことです。チーム全員が集まり、スプリント中の課題や改善点を議論し、次のスプリントで同じ問題が発生しないよう対策を検討します。
このレトロスペクティブの後、再びスプリントプランニングミーティングが実施され、その後はデイリースクラム、スプリントレビュー、そして再びスプリントレトロスペクティブといったサイクルを繰り返していきます。
スクラム開発のメリット
スクラム開発のメリットは以下のとおりです。
・短い期間で最大限の成果
・作業の工数見積もりが正確
・ビッグバンテストを回避
・チームワーク強化によって生産性向上が期待
特に、スプリントを繰り返して機能を増やしていくという性質上、短期間で成果を出しやすく、柔軟性が高いのがメリットです。また、リリース直前に大きな問題が見つかるという事態も回避できます。
ここでは、スクラム開発のメリットについて詳しく解説しましょう。
1.短い期間で最大限の成果
スクラム開発は、スプリントという短期間のサイクル単位で各工程を実施し、そのサイクルを繰り返す手法です。このアプローチにより、必要な機能を短時間で開発・実装し、すべての必要な機能が揃った段階でリリースすることが可能となるため、迅速に成果を上げることができます。
さらに、スクラム開発は非常に柔軟性に富んでおり、問題発生時の軌道修正や、顧客の要求・要件変更に対しても迅速に対応できる点が、大きなメリットとなっています。これは、従来のソフトウェア開発手法とは一線を画す特徴です。
2.作業の工数見積もりが正確
スクラム開発では、各スプリントごとに必要な工数を個別に見積もります。これは、完成までの全体的な期間で工数を見積もるウォーターフォール型開発とは異なり、プロダクトの各機能ごとに詳細に見積もるため、より精度の高い算出が可能となります。さらに、前のスプリントでの実績を反映させることで、非常に正確な見積もりに基づいた実現性の高い計画を立案できる点も大きなメリットです。
3.ビッグバンテストを回避
ウォーターフォール型開発では、すべての工程を順次に進めるため、リリース直前に大規模なテスト(ビッグバンテスト)を実施します。しかし、ビッグバンテストで重大な問題が発見されると、その解決に膨大な時間がかかり、生産性が大幅に低下する恐れがあります。
これに対し、スクラム開発では各スプリントごとにテストを実施するため、問題を早期に発見し、迅速に対応することが可能です。結果として、ビッグバンテストによるリスクを回避でき、プロジェクトの後半で大きな問題が発生するのを防ぐ大きなメリットがあります。
4.チームワーク強化によって生産性向上が期待
スクラム開発では、各メンバーの強みを活かしながら協力して作業を進めるため、効率的な開発とモチベーションの維持が可能となります。また、デイリースクラムなど定期的なコミュニケーションの機会により、チームワークが強化され、生産性の向上にも寄与します。常に同じメンバーで開発を進める環境では、スクラム開発が特に適していると言えるでしょう。
スクラム開発で使用される用語集
最後に、スクラム開発でよく使用される用語とその定義を一覧にまとめます。
・スプリント
プロジェクト全体を複数の短期的な開発期間に区切る単位です。各スプリントでは、進捗状況に合わせた柔軟な調整が行われます。
・スプリントプランニング
各スプリント開始前に行われる計画会議です。ここでは、実施すべき具体的な作業内容、工程、見積もりなどを決定し、実現可能な計画を立てます。
・デイリースクラム
スプリント期間中、毎日定時で行われる短時間のミーティングです。各メンバーが進捗状況や課題、今後の予定を共有し、プロジェクトの円滑な進行を図ります。
・スプリント・レトロスペクティブ
各スプリント終了後に実施される振り返りミーティングです。チーム全員でスプリント中の問題点や改善点を洗い出し、次回以降の開発プロセスの向上に繋げます。
・プロダクトバックログ
プロダクト開発に必要な機能や修正項目、改善点などを優先順位順にリスト化したものです。プロジェクトの進行に合わせて、随時追加・更新されます。
・プロダクトバックログ・リファインメント
プロダクトバックログに記載された各項目について、詳細情報の追加や工数見積もりを行い、具体的なタスク内容にブラッシュアップする作業です。
・スプリントレビュー
各スプリントの最終日に実施される成果物のデモンストレーション会議です。関係者からのフィードバックを受け、成果物が要求を満たしているかを確認し、必要な修正を検討します。
まとめ
この記事では、スクラム開発の特徴、進め方、そしてそのメリットについて解説しました。スクラム開発は、アジャイル開発の一手法として、少人数のチームが短期間のスプリントを繰り返すことで開発を進める方式です。この手法は高い柔軟性と生産性を実現し、迅速な成果が得られる点が大きな魅力です。
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